『次の世代に何かを残す』出会い

HALのvisionは『次の世代に何かを残す』です。
このvisionを実現するため、我々HALは、ビジョンの方向が同じ企業、団体、個人と一緒に活動していきたいと考えています。
本コンテンツはその対談シリーズ第4弾。
代表の佐藤が、HALのビジョンに共感して下さる方をお迎えして、対談をします。

今回は、徳島で生まれ育ち、徳島新聞社で編集委員を務められる、門田誠さんにお話しを伺いました。
これまで門田さんは、10年に及ぶ長期企画「移動編集局」や、今年8月まで2年半余り続いた連載「徳島発 幸せここに」をご担当されました。
今年スタートした、新聞社の枠を超えた挑戦となる「とくしま創生アワード」にも関わっていらっしゃいます。

― 自らの目で見て、吸収する ―

佐藤)
インタビューをする方は慣れていらしても、インタビューをされる側になるというのは、今迄あまりないのでは?

門田)
いや、はじめてです。笑

佐藤)
笑。そうですよね。
遡れば、門田さんとはじめてお会いしたのは、西粟倉のローカルベンチャースクールの審査会でしたね。
僕が最後の審査員をやらせてもらった回で、徳島県庁の方に「見学されてはどうですか?」とお声掛けしたら、直前のお誘いにもかかわらず、門田さんが来て下さった。
すごいフットワークに驚きました。

門田)
そうでしたね。笑。
やっぱり直に自分の目で見て、自分なりに吸収した方が、
徳島が持っているモノとその地域がもっているモノとの違いは、追えるんじゃないかと感じていて。

― スタートは何か一つでいい ―

佐藤)
なるほどー。
門田さんがそんな姿勢を持つに至ったきっかけはあるんですか?

門田)
いま連載している、「幸せここに」っていう企画の前は、
徳島新聞の60周年企画で「移動編集局」っていう企画を担当していたのですが。

佐藤)
なんだか、また目玉っぽい企画。どういう企画だったんですか?

門田)
「移動編集局」っていうのは、郡市単位でその地域に絞った連載をするっていう企画なんです。
その前、駐在していた鳴門支局で、地域に根差した取材の面白さっていうのを感じていて。その次がこの「移動編集局」の企画第1弾の舞台、伊座利っていう場所でした。
本当に毎日のように、1か月位通い続けました。漁師さんと毎日顔を合わす日々です。
面白かったのが、伊座利小学校では、都市部の子どもたちを留学させるという留学制度があって。それによって、平均年齢が若返っているという、徳島のどこにも無いような、奇跡的な地域なんです。
住民が立ち上がることで、地域が変われるんだって、そういう事例をまざまざと見せつけられたんです。

佐藤)
伊座利には毎日通われていたんですか?徳島市内から?

門田)
そうですね。連日のように通いましたね。
伊座利は、今は60代かな、年齢がよく似た世代の元気な人が数人いて、取り組みを引っ張っていました。
最初はぶつかることもあったらしいんですが、“地域を守る”、”学校の灯を残す”、という一致した目標にむかって、自分たちが成すべき事は何かというのをしっかり認識されている人達でした。

佐藤)
いいですね。
共通の課題を抱えて、自分事化したんですね。

門田)
そうなんです。同じ環境で育った人たちが集まって、何か一つの問題を共有し、解決しようと試みると、その結果、いろんなものが動き出すような気がします。
伊座利の場合は「学校の灯を消すな」が地域の人の合言葉であり、共有した課題でした。
それで、学校を守るために、じゃあ何をしよう?って考え出した答えが、都市部からの漁村留学の受け入れでしたし、その後、漁業後継者の育成やレストラン運営といった、地域そのものを守る取り組みへとつながっていきました。

佐藤)
なるほどー。
そうなんですよね。スタートは何か一つで、いいんですよね。

― 取材という、”宝探し” ―

門田)
伊座利を通して確信したのは、ニュースが有るから行くんじゃなくて、
その地域や取り組みが持つメッセージ性や価値を掘り起こし、伝えていくことの重要性。
地域を舞台にして書こう。なら何を伝えたいか?っていう。そういうところから。
もう、宝探しみたいなんです。

佐藤)
へー。宝探しなんだあ。素敵。

門田)
そうですね。無いものねだりじゃなくて、或るもの探しっていうテーマで。
地域にある宝を改めて探し出すっていう。そういうコンセプトでやってきました。

佐藤)
無いものねだりじゃなくて、或るもの探しか!うわー素敵ですね。

門田)
実はこれ、県内16郡市全部回って10年かかったんですよ。笑。結構色んな事前準備がいるので、年間1,2カ所くらいしか回れなくて。
その10年間が終わって、さあ次何やるか?となったとき、
今度は、この地域と共に歩む企画をもっと進化させたいと思ったんです。
それで、「幸せここに」という連載企画にたどり着きました。

佐藤)
地方の可能性を、実際チャレンジしている人に語ってもらうっていう。
その人の行動を伝えることによって、徳島の多くの人に「宝」を共有していくっていう、そういう企画だったわけですね。

― 価値観の転換 ―

門田)
2013年の12月31日にスタートした企画「幸せここに」は、
田舎が持っている可能性や、むしろ田舎にこそある優位性みたいなものを、ひたすら追い求めての取材の2年半だったので、
楽しかったし、ちょうど地方創生っていうのが叫ばれ始めているときだったので、
やりがいのある仕事だっていう実感がありましたね。
価値観の転換というのが実際に行われていて、田舎の可能性というものとリンクさせて伝えたかったところでした。

佐藤)価値観の転換っていうのは、どういう転換なんですか?

門田)
たとえば人口が、徳島だけでもこの30年間で20万人位減るっていう予測が有って、地方は成り立たなくなるんじゃないかっていう負のイメージが先行しがちだと思うんですけど。
本当にそうだろうか?って思うんです。
実際、この徳島の田舎で暮らしていると、たまに東京に行ったときにみる人々の苦しそうな表情と比べると、よっぽど僕らの方が生き生きしてるなあっていうのは感じていて。

佐藤)なるほど。それはありますね。

門田)
そんな地方にこそ、これからの時代、可能性があるんじゃないかと思うんです。
人が人らしく生きる生活を取り戻せるんじゃないだろうかって。
人口増加時代っていう時代に戻った方がいいのか?否、そうではないでしょうっていう。
成功や成長を追い求めて、今ではとてつもない負債を抱えていて、
そうして僕らの次の世代に、そのつけを残し続けているように感じています。
社会には今様々な課題が溢れかえっているけれど、それらは、この成長路線を進み続けた歪なんだろうなと思うんです。

佐藤)
いままでどうしても、モノサシが経済や数字だったりして、
資本主義だから当たり前なんですけど、それが悪いって言っている訳ではまったくないんだけど、他のモノサシが有ってもいいかなっていうのは、僕もいつも考えています。

門田)
そうなんですよね。
古い文化や慣習は地方の方がやっぱり多く守られていると思っていて。
日本らしさを守っている田舎の役割っていうのも感じるし、また田舎には一次産業供給っていう大きな役割もあって、
やっぱり田舎を守りたいなっていうのがあるんです。
まあそれよりもやっぱり単純に、ふるさとなんで。徳島は。
やっぱり徳島という場所に根付いた地方の新聞社、徳島をふるさとにもつ地方紙なんで。
やっぱりこのふるさとが楽しい方がいいじゃないですか。
住んでいる者として、この徳島がもっと楽しいものになったらいいなっていう、そういうことを感じながら取材を続けてきました。

― 伝えるだけでなく、一緒に汗をかける存在に ―

佐藤)
今回、はじめてお仕事をご一緒させて頂くのが、
門田さんの次の挑戦となる「とくしま創生アワード」ですね。
これはどういう意図で始められたんですか?
新聞社っていう枠を越えて、報道っていう枠も超えていますよね。

門田)
「移動編集局」から「幸せここに」の流れで、徳島が持っている潜在的な力や、魅力を伝えて来れたんじゃないかと思うんですが、
徳島の県内各地に、色んな可能性の芽が、もっと増えてほしいなというのがあって。
新聞社が絡むことによって、これまでと違ったチャレンジの場というのが作れないかと考えるようになったんです。
大きな理由のひとつは、神山や上勝みたいな、全国から視察が訪れるような事例を、もっと県内全体の流れにしていきたいというのがありました。
もうひとつは、チャレンジしたいけど一歩を踏み出せずにいる人たちを応援する場づくりが出来ないかなって思うようになって。

佐藤)
へー。いいですね。
神山や上勝のような流れが県内全体に広がったら、夢が膨らみますね。

門田)
記事を書くだけじゃなくて、伝えるだけじゃなくて、一緒に汗をかける存在に、地元紙としてなれたら、もっと徳島を盛り上げられるんじゃないかなって思ったんです。

佐藤)
なるほど。一緒に汗をかける存在って、素敵ですね。

― 寄り添ったサポートをしたい ―

門田)
そこから実はすごく悩みました。どんな事が僕らに出来るのかっていうのは。
去年一年、徳島大学と一緒に「まちしごとファクトリー」っていうものをやりました。
県西部を舞台に、起業/チャレンジしてみたいっていう人の育成を目指す勉強会と、6人ほどの少人数による合宿をセットにして実施しました。
うち1,2人は、起業まで進められたんですが。一方で、起業後の支援がまだ十分用意できていないという悩みがありました。
それを目の当たりにして、記者として"報道する"という効果だけでなく、もう少し寄り添ってサポートできる体制が出来たらいいと思ったんです。
新聞社だけじゃなくて、ビジネスを継続可能に出来る人も含められたらなって。お金、賞金みたいなものも出せないかなあと。
舞台も県西部と限られていたので、もっと、経験者も含めた県内のあらゆるひとがアイデアを持ち寄れる場っていうのを作りたいと思いました。
そんなことを、雑談のひとつとして、いろんな所で口にするようになったんです。
そうしたら、やろうやろうっていう風に言ってくれる人が、民間の中に、県庁の中にと、膨らんでいって。
話を詰めて行く中で、やりたいこともどんどん増えて行って。笑。
佐藤さんにまで声がかかったっていう、そういうわけなんです。

佐藤)
笑。ありがとうございます。

門田)
佐藤さんをはじめとして、アドバイザリーボードの方々は、今まで取材したなかでお世話になっている方々が多いんです。
今迄私自身が取材で出会って、この人に頼りたいって思った人を中心に、お声がけさせて頂いたところ、こんな素敵な顔ぶれになりました。笑。
そういうネットワークを作れたのは、やっぱり新聞社っていう役割があったからかと感じています。

佐藤)
その通りですね。これからが正念場ですね。

門田)
そうなんです。

― 起業の生態系の層ができるように ―

門田)
「とくしま創生アワード」が1,2年で終わるのではなく、5年、10年と続けて行けるかが大切だと考えています。やっぱりしっかり気持ちを込めて行かなきゃならんなあと思っています。
記事書くだけだったので、こういうことはしたことが無くって。笑。

佐藤)
そうですよね。笑。

門田)
皆さんに、是非とも、助けて頂ければと思っています。笑

佐藤)
喜んで!笑。
きっと、「とくしま創生アワード」を続けて行くと、「とくしま創生アワード」自体が勝手に成長して、人格を持ったように動きだすようになると思います。
最終的に、他のビジネスコンテストとは違う形になるかもしれませんね。
今回のアドバイザリーボードをもとに、起業の生態系の層が何層かできると思うんです。
今回彼らのアドバイスを受けた人が、次はアドバイスする側になったりとか、10年後はまた世代交代されていったり、3層ぐらいの層が出来るといいですね。

門田)
チャレンジをする人の背中をどう押していくかっていうところの仕組み作りを、きちんと確立していきたいと思っています。
こうしてやりながらで申し訳ないのですが。

佐藤)
それがいいんじゃないかと思いますよ。それが真だと思うんで。
何か決まった形で持って来ると、ある程度まではすぐ出来るんですが、その先成長しないんですよね。面白くないし。何より楽しい方がいいですから。
経営をやっていると、上手くいくのは、信頼関係で構築された土台があることなんですよね。
他の起業家にアドバイスするきっかけは、大抵経営的な相談に応えることなんですが、本当はそれって、1割ぐらいの価値しかないと考えています。
最も価値が有るのは、その人に"大丈夫だよ"って言ってあげることなんです。背中を押すというより、答えは、その人の中に必ずありますから。
記者さんも同じだと思うんですが。何個かある選択肢を、聞き手に話すことによって、整理されて。
質問をすると、その人が実はやりたいことが明確になってくる。

門田)
それはありますね。

佐藤)
答えはみんな持ってるんですよ。その答えを実現するにはどうやったらいいかっていうのは、ノウハウがあるので、それは僕が伝えることが出来ます。
大事なのは、自分が持っている答えを大切に一緒に、さっき門田さんがおっしゃっていた"寄り添う"こと。
そういうのが一番いいのかなって、ぼくはこの頃思ったりします。

門田)
そうですね。
人口が減るのは仕方ないし、減っても構わないのではと思っています。

佐藤)
むしろ少なくなってきて良かったっていうぐらいの感じになってきましたよね。笑

門田)
そう、いい規模感だと思うんです。
ちょっと頼りたいっていう人が、すぐ見つかる規模感っていうか。つながることができる規模感。
僕はこの距離感が、田舎の持ち味だと思うんで。

― 多様性のチカラを増やすこと ―

佐藤)
さっきの価値感の転換の話しの続きなんですが、
たとえば、年間300億円の売り上げを出す企業を1社生み出すよりも、年間3000万円の売り上げを出す企業を1000個生み出す方が、興味が有るんです。
それで年間3000万円の会社が30年、50年続いたら、さらにいいなあと思います。

門田)
いいですね。
スモールビジネスを、育てていくこと。

佐藤)
この地域には小さな会社が数多くあるという、多様性のチカラを増やすことが、僕のやりたいことなのかなと思っています。
この小さな会社たちが、地域の人やそれにたずさわる人の健康や喜びを増すような、人の生活に寄り添ったサービスを提供していくことが、次の世代に地域の魅力をつなげていくことになるかなーって。
小さな会社たちの存在を通して、社会のモノサシもGDPという1つのモノサシだけでく、人の生活に寄り添ったモノサシが増えていくかなーって、そんなことに興味があります。

門田)
いいですね。
本当、日々、そういう気づきをしながら、日々、楽しんでいます。笑

佐藤)
笑。僕も、楽しみだらけです!